2012年3月13日火曜日

青Bの造形とガジェットデザイン(下)

音響機材デザイン価値観の深層へ

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はじめに音響機材の定義。
音響 - 音の響き。音波の発生・伝播・検出のこと。
機材 - 機械と材料。機械とは目的に応じた一定の運動・仕事をするものであり、機械の構成要素を機材と呼ぶ。
つまり音響機材とは音の発生・伝播・検出にまつわる、ある目的を果たすための機械およびその構成要素といえる。
きょうは特に録音機に焦点をあてて考える。

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ガジェットという言葉がある。カメラや携帯電話などの小型電子デバイスが連想される。録音機のデザインはその性格からガジェット感という言葉がよく似合う。


 nagra SNST(録音機)
 national rf877(ラジオ)
pioneer se255(ヘッドホン)
nagra PL-P(オーディオアンプ)

辞書によると、

GADGET
目新しい道具、面白い小物、携帯用の電子機器といった意味の英単語
特定の仕事に大変役に立つ装置あるいは制御機器
(家庭用などの)気のきいた小物. - kitchen gadgets 台所用小物類.
ちょっとした機械装置. とある。



個人的に、その語感からガチャガチャと硬質な音をたてる道具のイメージがぴったりくる。小型で、携帯できて、頑丈。必然的に硬く劣化しにくい素材がよしとされる。



道具の立てる音

おそらくデザイナーでなくとも、人はものを見た瞬間、その質感を連想できる。ものとものがぶつかって発生する音も、意識の奥深くでは連想しているんじゃないかと思う。質の良い素材は心地よい音がする。意識に沈殿した音は消えることなく、ものへの愛着へと変質していく。
金属の音。一般的に頑丈で、ガジェット感に連想されるであろう。容易には作れない造形、それゆえ頑丈で詰まった、強い音がする。
プラスチックの音。プラスチックも質により音が異なる。成形が容易なもの、難しいもの、発色のよいもの、悪いもの。経験と照らし合わせその質を理解している。



劣化

道具は劣化する。傷がつき、塗装が剥がれたりする。劣化しても美しいものはある。錆びた鉄、割れたガラス、欠けた彫刻、それはあたかも自然の姿に戻ろうとするように。しかしプラスチックの劣化はあまり美しいと感じない。ものの本によるとプラスチックは、元は数億年前の海や湖で繁殖したプランクトンや藻などの生物体の死骸だそうだ。言われてみるとプラスチックが折れ曲がったり、えぐれたりするさまは生き物の傷つく姿に似ているかもしれない。



洗練

美しいガジェットには無駄がない。無駄=造形的な破綻=視覚的な妨げ。造形的な破綻は機能の妨げである。目的達成の妨げである。たとえばボタンを指で押す、音の鳴るタイミングがイメージよりも若干速い、これは視覚的な印象と機構が噛み合っていないことを意味する。ボタンの押し心地の悪さが誤操作を招くことは言うまでもない。ボタンを0.1mmフラットにして、若干シボをかけることで盛り上がった印象が収まりクリック音とシンクロする。こういった具合に、必要以上に開いたすき間を詰めるにはどうしたらいいか。今にも外れそうなラバーフットをもっと効率的に固定する方法はないか。プラスチックの劣化を最小限に抑える造形は如何ようか。と、ひとつひとつ形を整理することでガジェットデザインは洗練されてゆく。



造形におけるガジェット感とは

録音機は道具だ。前回のポストでも述べたように、そのデザインが「売るため」になることは悲しい。デザイナーのすべきこと、それは現状の改善だ。全く新しいものをつくる必要はない。現状の弱点を克服することだ。ガジェットのデザインとは、作り、使い、作り直し、道具としての完成度を高めていくことだ。
このポストを書く前は、ガジェット感という抽象的なエッセンスを探していた。しかしそれは間違いだった。青Bの示した「要素の圧縮」において、ガジェットデザインの本質が見えたのかもしれない。学校で散々言われたのにな。振り返りは大事だね。
ʕ•̫͡•ʔฅ 



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